より効率的なDC-DCコンバーターの構築:300 W絶縁型DC-DCコンバーターの効率評価と損失解析

DC-DCコンバーターの設計では効率が重要で、パワーMOSFETの使用はこの効率に大きく影響します。特に2次側の同期整流器用MOSFETの選択は、高効率化の改善ポイントとなります。

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はじめに

本稿では、高効率を達成するために必要な2次側MOSFETの特性を決定することに焦点を当てています。図1に示す評価回路を使用した直接測定を行い、その後、高精度シミュレーションの結果と比較して、損失の主な原因を特定します。

これは、図1:300W DC-DCコンバーターの2次側損失を解析するための物理評価回路の画像です。
図1:300W DC-DCコンバーターの2次側損失を解析するための物理評価回路

第1章: 効率向上の追求

高効率の追求こそが、DC-DCコンバーターを含むほとんどのパワー・アプリケーションにおいて最重要です。効率の定義は以下の通りです。

効率 = (Vout × Iout) / (Vin × Iin) × 100 [%]

さまざまな設計上の決定が効率と損失に影響を与えます。中でも1次側と2次側のMOSFETの選択が重要で、絶縁型DC-DCコンバーター回路内の損失の40 %以上を占めます。

第2章: 評価ボードの設計

これは、図2:簡略化した絶縁型DC-DCコンバーター回路の画像です。
図2:簡略化した絶縁型DC-DCコンバーター回路

300 WのDC-DCコンバーター評価ボードを製作し、その損失を考察しました。簡略化した回路図を図2に示します。

この回路では、一次側(入力側)が入力となり、2本のレグと4個のスイッチング・デバイス(TR1、TR2、TR3、TR4)があります。二次側(出力側)には2つのデバイス(TR5とTR6)があり、これらは同期整流用です。さらに、静電容量 C2とインダクター L2による出力平滑フィルターが含まれます。入力電圧はVi、出力負荷はRL、Vsync1とVsync2はそれぞれTR6とTR5のドレイン電圧です。TR5とTR6には、2つのMOSFETが並列に接続されていることに注目してください。

このコンバーターは、フェーズシフト・フルブリッジ(PSFB)トポロジーを使用して12 Vを出力します。出力電圧は、TR1-TR2レグとTR3-TR4レグ間の位相シフト動作により、50 %のデューティー・サイクルで安定化されます。ハイサイドMOSFETとローサイドMOSFET間のデッドタイムにおける貫通動作を防止するため、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)が行われ、電力変換器のスイッチング損失を低減させています。

表1に300 W DC-DCコンバーターの入出力特性を示します。

これは、表1:300 W DC-DCコンバーターの入出力特性の画像です。

表2は、8つの動作モードをまとめたものです。図3と図4は、これらの各モードにおける電流の流れを青と赤の点線で示しています。

これは、表2:動作モードの画像です。
これは、図3:動作モード 1 - 4の画像です。
図3:動作モード 1 - 4
これは、図4:動作モード 5 - 8の画像です。
図4:動作モード 5 - 8
これは、図5:8つの動作モード時の回路動作波形の画像です。
図5:8つの動作モード時の回路動作波形

全8つの動作モード時の波形を図5にまとめます。これらの簡略化した波形には、スイッチング素子TR1~TR6のゲート電圧(VG)とドレイン電流(ID)、TR5とTR6のドレイン・ソース間電圧(Vsync1, Vsync2)、端子間電圧(VL2)とインダクター L2の電流(IL2)が描かれています。電流はソースからドレインに流れるため、TR5とTR6を流れる電流は負と表記されていることに注意が必要です。

第3章: 効率評価と損失分析

これは、図6:効率評価時の計測機器接続方法の画像です。
図6:効率評価時の計測機器接続方法

効率の計算式は以下の通りです。

効率 = (Vout × Iout) / (Vin × Iin) × 100 [%]

図6に、300 W絶縁型DC-DCコンバーター回路の効率を評価するための設定を示します。Vin, Iin, Vout, およびIoutは、以下の条件下で、2パターンのスイッチング素子の組み合わせにて測定しました。
Vin=48 V, Vout=12 V, Ta (周囲温度) =25 ℃
Iout:1 A, 3 A, 5 A, 7 A, 10 A, 14 A, 16 A, 18 A, 20 A, 25 A
DC-DCコンバーター回路基板は、近くに設置した冷却ファンを使って強制空冷しています。

この評価は、一次側MOSFETとしてTPN1200APL、二次側MOSFET(TR5, TR6)として2種類のMOSFET(当社TPH2R408QMとA社製相当品)を使用して実施されました。仕様の詳細はアプリケーションノートの9ページに記載されています。TPH2R408QM MOSFETは、他社製相当品と比較してドレイン・ソース間のオン抵抗が低く(1.9 mΩ)逆回復電荷量が少ない(74 nC)ことから選択されました。

参照リンク:

第4章: 二次側スイッチングが電力変換効率に及ぼす影響

これは、図7:効率曲線の画像です。
図7:効率曲線

図7(a)~(c)は、TPH2R408QMとA社製MOSFETを使用した効率カーブを比較したものです。予想通り、TPH2R408QMは中負荷と重負荷で最も高い効率レベルを示しています。このような負荷では、導通損失が支配的であり、TPH2R408QMはドレイン・ソース間のオン抵抗が小さいからです。最大効率は出力負荷16 Aで94.83 %、全負荷25 Aで94.12 %となっています。

一方、A社製MOSFETのドレイン・ソース間オン抵抗はTPH2R408QMより約16 %大きく、出力負荷16 A時の効率は94.65 %、全負荷25 A時の効率は93.89 %です。

図8は、両タイプのMOSFETの素子温度と出力電流の関係を示しています。注目すべきは、TPH2R408QMの温度が常に45 ℃以下であり、A社製MOSFETよりも発熱が少ないことを示していることです。

これは、図8:温度比較の画像です。
図8:温度比較

第5章: 損失解析シミュレーション

これは、図9:損失解析回路の画像です。
図9:損失解析回路

損失解析は、損失解析専用に設計された高精度デバイスモデルを用いたシミュレーター回路を使って行いました。評価ボードではフェーズシフト・フルブリッジPWMコントローラーICを使用していますが、このシミュレーション回路では電圧・電流センシングに応じてフィードバックを行う代替制御モデルを使用しています。シミュレーション回路を図9に示します。トランスとリアクトルは実測結果に基づいています。シミュレーション設計の詳細については、アプリケーションノートを参照してください。

これは、図10:損失計算タイミングチャートの画像です。
図10:損失計算タイミングチャート

シミュレーションが検証された後、二次側MOSFETの損失定義に関連した結果が得られました。図10は、IとVの定義、二次側MOSFETのタイミングチャート、タイミングチャートに基づく各損失形態の算出方法を示しています。各損失区間は時間の区切りに基づいており、6種類の損失が計算されました。

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第6章: どのMOSFETが最適か?

これは、図11:損失タイプ別に分類された2次側MOSFETの損失解析結果の画像です。
図11:損失タイプ別に分類された2次側MOSFETの損失解析結果

TPH2R408QMの場合の2次側MOSFETの損失解析結果を図11にプロットします。支配的な損失は、ボディーダイオードのリカバリ損失 (Erecovery) (これは電流の影響を受けにくい) と導通損失 (Esync) であり、これは出力電流とともに増加します。このことは、逆回復電荷量が低く、ドレイン・ソース間のオン抵抗が低いMOSFETが最も効率的な選択であることを示しています。

第7章: 効率の最適化:二次側MOSFETの探索

絶縁型DC-DCコンバーター回路の二次側MOSFETの選定は、全体の効率を左右する重要なポイントです。当社は、30 Vから250 Vまでの幅広いVDSSと、各VDSSクラスにおけるさまざまなドレイン・ソース間オン抵抗タイプのパワーMOSFETの強力なラインアップ提供しています。当社の低逆回復電荷量、低ドレイン・ソース間オン抵抗MOSFETを用いた高効率DC-DCコンバーターの設計については、リファレンスデザインをご参照ください。

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