150 V耐圧MOSFETを使用したマルチレベルインバーターにより高効率化を実現

生産設備の自動化に貢献する産業用ロボットなどにはモーターを制御するインバーターが欠かせません。
600 V耐圧MOSFETに代わり150 V耐圧MOSFETを使用したマルチレベルインバーターによるインバーターの高効率化手法を提案します。

  • マルチレベルインバーターは2レベルインバーターに比べきめ細かい出力電圧の制御が可能
  • 600 V耐圧系MOSFETに代わり、低オン抵抗・低ゲートチャージ特性を有する150 V耐圧系MOSFET使用による高効率化の実現
  • 5レベルインバーター動作が可能なリファレンスデザインを公開

* マルチレベルインバーターは複数の方式がありますが、ここではダイオードクランプ型NPC (中性点クランプ) 方式マルチレベルインバーターをマルチレベルインバーターと呼んでいます。

マルチレベルインバーターとは

マルチレベルインバーターの製品イメージ画像

マルチレベルインバーターは、一般的なインバーター (2レベルインバーター) では素子1個で構成されるスイッチング部に複数の素子を直列に配置した構成で、出力電圧を細かく制御することが可能です。

図1は一般的な2レベルインバーターの一部であるブリッジ回路のブロック図です。(制御するモーターの種類によって、この部分を複数組み合わせてインバーター回路を構成します。3相モーターを制御する3相インバーターは、ブリッジ3個で構成されます。) 図に示すように電源とグランド間に2つのスイッチング素子 (図ではMOSFET) Q1、Q2を配置し、Q1、Q2のオン/オフを制御し中点から所望の電圧を出力します。(MOSFETが配置された電源-中点間、中点-グランド間をアームと呼びます。)
図2の2レベルインバーターの動作波形例のように、出力はQ1オン、Q2オフ時にE (電源電圧)、Q2オン、Q1オフ時に0 (グランド電位) の2レベルとなります。

図1 2レベルインバーター構成例
図1 2レベルインバーター構成例
図2 2レベルインバーター動作例
図2 2レベルインバーター動作例

2レベルインバーターでは各アームにスイッチング素子を1個ずつ配置していましたが、マルチレベルインバーターは各アームに複数のスイッチング素子を配置した構成となります。各素子のオン/オフを制御し中点より所望の電圧を出力します。ここでは、図3に示す各アームに2個のスイッチング素子を配置した3レベルインバーターを例に説明します。
図4に3レベルインバーターの動作例を示します。Q1とQ2がオンの時、Q2とQ3がオンの時、Q3とQ4がオンの時の3つの状態を繰り返します。出力電圧は、Q1とQ2がオンの時はE、Q2とQ3がオンの時はE/2、Q3とQ4がオンの時は0の3レベルとなります。このように、3レベルインバーターは出力電圧の分解能が1.5倍になり出力電圧をきめ細かく制御できるという利点があります。

図3 3レベルインバーター構成例
図3 3レベルインバーター構成例
図4 3レベルインバーター動作例
図4 3レベルインバーター動作例

ここで、2レベルインバーターと3レベルインバーターの出力電圧の振幅、各スイッチング素子に印可される電圧を考えます。どちらの電源電圧も同じEとすると、2レベルインバーターの出力はEと0なので出力電圧の振幅はE、各スイッチング素子に印可される電圧もEとなります。一方、3レベルインバーターの出力はEとE/2と0なので出力電圧の振幅はE/2、各スイッチング素子に印可される電圧もE/2となります。すなわち、3レベルインバーターでは2レベルインバーターに比べ、半分の耐圧の素子が使用できることが分かります。一般にMOSFETなどのスイッチング素子は耐圧が上がる程、単位面積あたりのオン抵抗の増大などの影響でスイッチング用途での損失は悪化する傾向を示します。従ってマルチレベルインバーター化することで、より耐圧の低い素子を使用することは機器の損失低減に貢献します。

TPH9R00CQ5のマルチレベルインバーターへの応用

今般、量産を開始したTPH9R00CQ5は、最新のU-MOSX-Hプロセスを採用しセル構造を最適化することで、当社従来世代品に比べオン抵抗と電荷量特性のトレードオフを大幅に改善し、スイッチング用途での損失低減を実現する150 V耐圧系MOSFETです。本製品はライフタイム制御技術を活用し内蔵ダイオードを高速化したハイスピードダイオード (HSD) タイプの製品であり、スイッチング電源用途以外にもモーター駆動時の回生電流が内蔵ダイオードに流れるインバーター用途への応用に適しています。

この製品を活用したマルチレベルインバーターを検討します。インバーター出力を3相AC200~240 Vと想定すると入力電圧 はDC400 V程度となり、2レベルインバーターの場合、スイッチング素子に印可される定常的な電圧振幅は400 Vですが、スイッチング時のサージ電圧を考慮し600 V以上の耐圧を有する素子を使用します。本製品の耐圧は150 Vですので、4段構成の5レベルインバーターが適当です。

ここで、2レベルインバーター構成とした場合とTPH9R00CQ5を使用した5レベルインバーターの場合で、搭載スイッチング素子の特性を比較します。上述の通り、2レベルインバーターでは耐圧600 V以上の素子が必要ですので、600 V耐圧でインバーター用途に適した高速ダイオード内蔵タイプのTK62N60W5 (600 V/DTMOSIV/HSDタイプ)を搭載素子とします。TK62N65W5の素子特性と、TPH9R00CQ5の素子特性を比較しますが、TPH9R00CQ5の場合は5レベルインバーター構成ですので、4個合計の特性で考えます。表1に、両者の電流通電時の損失に影響するオン抵抗 (RDS(ON))と、スイッチング動作時の損失に影響するゲート電荷量 (Qg) を示します。オン抵抗、ゲート電荷量ともにTPH9R00CQ5 (4個合計)の方が小さいことが分かります。これは実際にインバーター動作させた際にTPH9R00CQ5を使った5レベルインバーターの方が低損失となることを示しています。

表1 TPH9R00CQ5の4直列構成時とTK62N60W5の特性比較

  5レベルインバーター構成
(TPH9R00CQ5の4直列使用)
2レベルインバーター構成
(TK62N60W5使用)
RDS(ON) (@VGS = 10 V) 36 mΩ (9 mΩ x 4) 45 mΩ
Qg (VGS = 0~10 V) 176 nC (44 nC x 4)  205 nC

リファレンスデザイン概要

当社ではTPH9R00CQ5を搭載したマルチレベルインバーターのリファレンスデザインを開発し、設計情報を公開していますのでこちらも参照願います。

  • 入力:DC 400 V (最大)
  • 定格出力:3相AC 200~240 V、10 A
  • 制御電源:DC 5 V
  • 最大5レベル動作可能 
600 V MOSFET の代わりに 150 V MOSFET を使用したマルチレベル インバーターの新しいアプローチ

150 V耐圧MOSFETを使用したアプリケーション情報は以下ページをご覧ください
汎用インバーター/サーボ

セット設計に流用可能な各種のリファレンスデザイン情報は以下ページをご覧ください
リファレンスデザインセンター

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